Special Review
SPECIAL CONTRIBUTION
Current State of Global Disasters and Development of Global Nursing Professionals
世界の災害の現状とグローバルな看護専門職の育成
Barbra Mann WALL
Thomas A. Saunders III Professor Emerita of Nursing and Eleanor Crowder Bjoring Center for Nursing Historical Inquiry Director Emerita,
University of Virginia School of Nursing, Charlottesville, Virginia, USA
DOI: https://doi.org/10.24298/hedn.2025-SP00
イントロダクション
2024年は,世界中で1億人以上の人々が災害の影響を受け,緊急支援を必要とした(EM-DAT, CRED/UCLouvain, 2024)。看護師は世界最大の医療提供者集団として,負傷者とその家族のケアに重要な役割を果たし続けている(Harthi, et al.)。『Health Emergency and Disaster Nursing』の本特集では,世界の災害看護の現状と看護専門家の育成について考察する。世界各国では,地震,異常気象,政治的紛争,新たな感染症の発生,社会経済的格差などが人々の健康を脅かしている。米国では最近,カリフォルニア州の山火事で17,000戸以上の家屋が失われ,その損失額は325億ドルに達した。このような問題への対処は喫緊の社会的課題であり,この国際学術誌の編集者と著者は,それらに備え,その影響を軽減するうえでの看護師の役割を強調することが極めて重要であると考えている。
本特集では,各国で最も危機的な状況にある災害,最新の介入動向,看護人材育成の現状,教育的な取り組みについて論じた10本の論文を紹介する。そのうち3本は、特に気候変動に焦点を当てている。
インドネシアの著者は,気候変動が同国の災害にどのような影響を及ぼしているか,また,災害時のバーチャルリアリティシミュレーション訓練の充実など,必要な減災策や適応策について論じている。米国では,貧困層や社会的弱者が最も大きなリスクにさらされており,社会正義,多様性,公平性,インクルージョンの原則を含むアドボカシー活動を推進する上で,看護師が特に重要であることを強調している。南アフリカの著者は,同国が気候変動に対して特に脆弱であることを強調し,看護の専門性を高め,あらゆるレベルでの看護教育を推進し,熟練した看護師を確保するための,公平な災害リスク削減・管理戦略を求めている。ブラジルの著者は,持続可能で革新的な環境保健アプローチを通して,看護師がどのように地域および世界的なレベルでレジリエンス構築に貢献しているかについて論じている。地震が頻発する日本の研究者は,リスク削減活動,看護の役割,高度な災害看護教育と研究の必要性について論じている。スペインとポルトガルの学者による共同プロジェクトでは,看護師の備えとレジリエンスを国際的に向上させるために,学際的でエビデンスに基づいた戦略を提案している。オーストラリアの研究者たちは,災害看護教育は大学院レベルでも受けることができるが,オーストラリアの多文化社会のニーズを満たすためには,学部教育の必修科目として強化することが重要であると提言している。このアプローチでは,より包括的な視点を取り入れたオールハザードの災害要素が組み込まれており、幅広い災害に対応するための重要な情報が含まれている。台湾の著者は,教育プログラムの拡充、研修プログラムの実施、国際的な協力の推進において果たしている重要な役割を改めて強調している。他の国々と同様に,リベリアも社会経済的状況,インフラの制約,環境要因による多様な災害に直面している。リベリアの研究者は,看護師の国際的な研修会やセミナーが,グローバルな知識交換,専門的能力の開発,多様な部門間の協力を促進するための重要なプラットフォームとなっており,異文化理解の促進に寄与していることを述べている。最後に,英国(UK)の著者は,同国で開発された概念的なフレームワークを基に、シミュレーションを活用した効果的な災害看護教育アプローチを紹介しており、この手法はイギリス以外の国々にも適用可能であることを示している。
いずれの記事も,看護のレジリエンスと,国際看護師協会(ICN)や世界保健機関(WHO)の能力基準との連携などが主なテーマとなっている。本特集号をお読みいただき,有益な情報が得られることを願っている。