Current global scenario and challenges in nursing during
disasters
災害看護の世界的現状と課題

Adriana Maria DUARTE1, Cláudia AUGUSTO2, Florinda GALINHA3,
Maria DO CARMO GOUVEIA4 and Maria Luísa SANTOS5
1Nursing Program, University of Brasilia - Ceilândia School (UnB/FCE), Brazil
2Escola Superior de Enfermagem, Universidade do Minho, Portugal
3Escola Superior de Enfermagem de Lisboa, Portugal
4Universidade da Madeira, Portugal
5Escola Superior de Enfermagem S. José de Cluny, Portugal

オリジナル論文

DOI: https://doi.org/10.24298/hedn.2024-SP11

自然災害であれ,技術的な災害であれ,あるいは人為的な紛争による災害であれ,災害は世界中の医療システムに重大な課題をもたらし,協調的かつ効果的な対応が求められる。看護は,こうした災害の影響を軽減し,予防,対応,復興に貢献する上で重要な役割を担っている。気候変動,パンデミック,地政学的対立,社会経済的不平等が顕著な現在の世界情勢において,看護師が直面する課題はより複雑で多面的なものとなっている。主な障害としては,災害マネジメントに関する特別なトレーニングの欠如,人的・物的資源の不足,危機的シナリオにおいて看護師が直面する身体的・精神的な負担が挙げられる。さらに,被災した人々の文化的多様性や不安定な健康状態にケアを適応させる必要性は,家族中心のアプローチの重要性を強調している。本稿では,災害対応における看護師の役割を探り,課題を分析し,備えとレジリエンスを向上させるためのエビデンスに基づいた戦略を提案する。看護の災害対応能力を強化するためには,国際的な政策の統合,専門的な研修プログラム,そして情緒支援システムの充実が鍵となる。

キーワード:災害,災害看護,グローバルヘルス,専門的能力,災害対応

 

現在の世界的な状況は,この20年の間に災害の頻度と強度が大幅に増加していることが特徴となっており,その多くは気候変動,無計画な都市化,環境悪化といった人間の活動に直接関連している。災害疫学研究センター(CRED)のデータによると,洪水,サイクロン,地震,森林火災などの災害がますます頻繁に発生し,壊滅的な影響をもたらしており,2000年から2019年の間に世界中で150万人が死亡し,40億人が負傷し,家を失い,避難を余儀なくされ,または緊急支援を必要としている(Center for Research on the Epidemiology of Disasters, 2020)。例えば,2024年にブラジルのポルト・アレグレ地域で発生した都市型洪水や地滑り,スペインでの洪水は,不適切な都市計画の影響を浮き彫りにしている。また,ポルトガルの農村部で発生した自然火災は,数千ヘクタールを焼き尽くし,緊急対応要員や住民の被害を引き起こした。
自然災害に加えて,石油流出,原子力事故,武力紛争といった人為的災害も,人道的危機を生み出し続けている。これらの要因が重なると,特に社会的・経済的不平等(Loke, Guo & Molassiotis, 2021)や民主主義の脆弱性(Kickbusch, 2021)が顕著な地域において,住民の脆弱性が一層深刻化する。その顕著な例がCOVID-19のパンデミックであり,自然災害ではないものの,長期にわたり危機に直面した際に世界の医療システムは脆弱性を露呈した(Russell, 2023)。また,現在進行中のウクライナ戦争やガザ地区での武力紛争も大規模な人道的災害となっており,数十万人の死傷者を出し,さらに数百万人もの難民が電力,水,その他の生活に必須なサービスを利用できない状況に置かれている。
災害は,外傷,心理的トラウマ,死亡といった直接的な影響に加えて,感染症の流行,栄養不良,慢性疾患の悪化などの間接的な影響ももたらす。これらの出来事は,公衆衛生に深刻な影響を及ぼし,保健システムによる適切で効果的な対応が求められ(Loke et al., 2021),また,救急看護師を災害対応の最前線に位置づけている(Amberson Wells & Gossman, 2020)。
世界中で壊滅的な災害や緊急事態の発生頻度が増加する中で,看護師の役割はますます重要となっている。看護師は多くの場合,災害時の予防,対応,復興の最前線で活動している(Farokhzadian et al., 2024)。世界保健機関(WHO)は,看護が持続可能な開発目標(SDGs)の達成,特にユニバーサル・ヘルス・カバレッジの実現や効果的な緊急対応に不可欠であると認識している(World Health Organization, 2015)。この点に関して,国際看護師協会(ICN)は,災害看護の一般および高度なコンピテンシーを8つの領域に分類している。それは,準備と計画,コミュニケーション,事故管理システム,安全と保護,評価,介入,復興,法的・倫理的側面である。これらの領域は,看護師が災害マネジメントなどのあらゆる局面に対応するために幅広い知識,技術,能力を備える必要があることを示している。これには,支援システムの計画と組織化,現場対応者への支援の提供,リスクレベルを分類し適切に伝達するための戦略的コミュニケーションへの関与などが含まれる(International Council of Nurses, 2019)。
同様に,国際家族看護協会(IFNA)は,その中核となる価値観,組織の使命,そして家族の健康とその環境が家族看護の中心的な現象であるという認識に基づき,家族看護師が教育・研究・実践を通じて協力し,個人や家族の健康,適応力,回復力を促進し,環境への影響を軽減することが求められると考えている。「地球の健康と家族の健康に関する声明」において,IFNAは,地球の生態系の変化が世界中の家族に前例のない課題を突きつける中,家族看護師の役割がますます重要になると述べている(International Family Nursing Association, 2020)。
しかし,看護職の世界的な不足は深刻な問題となっている。WHO(2020)によると,世界全体で約590万人の看護師が不足しており,特にアフリカ,東南アジア,東地中海地域,そして中南米の一部で大きな欠員が見られる(WHO, 2020)。この不足は,より良い労働環境を求めて専門職が移動することでさらに深刻化し,最も脆弱な地域での人材不足を一層悪化させている。この人材不足は,災害対応能力や質の高い医療提供に大きな影響を及ぼしている。さらに,世界的な看護師不足に加えて,多くの教育システムでは,危機管理や災害対応に関する十分な訓練が提供されていない。その結果,看護師は一般的な医療ケアには習熟しているものの,危機的状況に適切に対応するための能力が不足している場合がある。加えて,過重労働,低賃金,不十分な資源といった問題が世界的に共通する課題となっており,看護職の定着を阻む要因となり,さらなる人材不足を悪化させている(Park & Kim, 2017)。
この状況を改善するためには,看護師が災害マネジメントのあらゆる局面に対応できるよう,コンピテンシーに基づいた質の高い戦略が必要である(Said, Molassiotis & Chiang, 2020):

  • グローバルなコンピテンシーに対応した教育カリキュラム: 災害および危機管理のモジュールを看護教育課程に統合する必要がある。現代のカリキュラムには,エビデンスに基づく実践,災害マネジメント,公衆衛生・国際保健,異文化間コミュニケーション能力などの必須コンピテンシーを反映させるべきである。これらの要素は,看護師が現代の課題に対応できるよう備えるために不可欠である。
  • 教育と訓練: 定期的な訓練,シミュレーション,国際的なパートナーシップを通じて,緊急事態への対応能力を向上させることができる。実験室環境でのリアルなシミュレーションの活用は,臨床的な緊急事態や災害対応といった複雑な状況に備えるために,将来の医療従事者の準備を強化する。日本やアメリカなどの国々は,このアプローチにおいて先導的な役割を果たしており,先進的な実験施設や現実に近いシナリオを活用している。例えば,2025年にはポルトガルでEU MODEXプロジェクトが開催される予定であり,これは欧州市民保護メカニズムの一環として実施される。このイベントは,欧州市民保護メカニズム(UCPM)と世界保健機関(WHO – EMT Initiative)が主催し,国際的な都市捜索救助チーム(USAR)や医療チーム(EMT)が参加する。訓練では,現実的で没入感のある災害対応シナリオが再現され,学部生や大学院生の看護学生が参加することで,将来の医療専門職の災害対応能力向上への投資が進んでいることを示す国際的かつ機関横断的な取り組みとなる。
  • 学際的アプローチ: 現代の看護は、他の医療分野との連携を必要とする。学際的な学習を促進するカリキュラムは、看護師が多職種チームの一員として効果的に働けるようにし、患者やその家族にとって最良の成果をもたらすことにつながる。
  • 労働環境の改善: 競争力のある給与、公正な労働時間、適切な設備の確保を保証する政策は、看護師の確保と定着に不可欠である。さらに、心理的サポートの提供や健康的な職場環境を提供することで,看護師の全体的なウェルビーイングを促進することも重要である。
  • 人材確保と定着: 奨学金制度や報奨金制度など,新たな人材を呼び込む取り組みは、看護師不足の解消に役立つ。さらに、キャリアアップや昇進の機会など,経験豊富な専門職を定着させるための戦略も同様に重要である。
  • 国際協力: WHOなどの国際機関は、知識の共有を促進し、研修プログラムに資金を提供し、専門的実践の国際基準を導入することで、看護人材の強化に重要な役割を果たすことができる。
  • 保健医療技術との統合: 早期警報システムや通信アプリケーションなどの先進技術を活用することで、災害時の看護対応の効果を高めることができる。

このような課題があるにもかかわらず、グローバルな健康危機に対応するための能力やスキル開発を可能にする教育プログラムや研修を継続している国もある。看護師は、災害や大量の負傷者が発生するような緊急時において、計画から実践に至るまでの幅広い役割を担い、組織の計画策定に貢献し、対応の先導役を果たしている。なお、災害の特性や対策は,インフラ,公共政策,資源の違いを反映して,国によって大きく異なることは注目に値する。
大災害の増加と看護師不足が交差する現状は、グローバルヘルスにおける重大な課題となっている。保健システムの危機対応能力を強化し、最も脆弱な人々を守るためには、看護の発展への投資が不可欠である。看護教育の充実、看護職の地位向上、定着を優先する公共政策と、国際協力の取り組みを組み合わせることで、現在の状況を一変させ,対応力の不足を克服することができる。今後、より深刻な自然災害や長期化する健康危機といった複雑な課題が待ち受ける中で、看護師は最前線で活躍し、強靭な地域社会の構築において不可欠な役割を果たし続けるだろう。

References

Amberson, T., Wells, C., & Gossman, S. (2020). Increasing Disaster Preparedness in Emergency Nurses: A Quality Improvement Initiative. J Emerg Nurs, Sep; 46(5): 654–665.e21. doi:10.1016/j.jen.2020.05.001. PMID: 32828482.
Centre for Research on the Epidemiology of Disaster (CRED). (2020). The International Disasters Database. https://www.emdat.be/publications/
Farokhzadian, J., Mangolian Shahrbabaki, P., Farahmandnia, H. et al. (2024). Nurses’ challenges for disaster response: a qualitative study. BMC Emerg Med, 24, 1. https://doi.org/10.1186/s12873-023-00921-8
International Council of Nurses. (2019). Core Competencies in Disaster Nursing. Version 2.0. https://www.icn.ch/sites/default/files/inline-files/ICN_Disaster-Comp-Report_WEB_final.pdf
International Family Nursing Association (IFNA). (2020). IFNA Position Statement on Planetary health and family health. https://internationalfamilynursing.org/2020/04/18/ifnaposition-statement-on-planetary-health-and-family-health/
Kickbusch, I. (2021). Visioning the future of health promotion. Global Health Promotion, 28(4), 56–63. https://doi.org/10.1177/17579759211035705
Loke, A. Y., Guo, C., & Molassiotis, A. (2021). Development of disaster nursing education and training programs in the past 20 years (2000-2019): A systematic review. Nurse education today, 99, 104809. https://doi.org/10.1016/j.nedt.2021.104809
Park, H. Y., & Kim, J. S. (2017). Factors influencing disaster nursing core competencies of emergency nurses. Applied nursing research: ANR, 37, 1–5. https://doi.org/10.1016/j.apnr.2017.06.004
Russell, S. (2023). Supporting Nursing and Public Health During the COVID-19 Pandemic and Other Public Health Emergencies.Public health reports (Washington, D.C.: 1974), 138(1_suppl), 3S–5S. https://doi.org/10.1177/00333549231176292
Said, N. B., Molassiotis, A., & Chiang, V. C. L. (2020). Psychological preparedness for disasters among nurses with disaster field experience: An international online survey. International Journal of Disaster Risk Reduction, 46(1), 01533. http://doi.org/10.1016/j.ijdrr.2020.101533
World Health Organization. (2015). Sustainable Development Goals. https://www.who.int/europe/about-us/our-work/sustainabledevelopment-goals
World Health Organization. (2020). State of the world’s nursing 2020: investing in education, jobs and leadership. Geneva: World Health Organization. https://www.who.int/publications/i/item/9789240003279

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