Overview of current landscape of disasters in South Africa
南アフリカにおける災害の現状

Katherine KRUGER1, Sue Anne BELL1,2, René C ACKERMANN3 and Petra BRYSIEWICZ4
1University of Michigan, School of Nursing Ann Arbor, MI, USA
2University of Michigan, Institute for Healthcare Policy and Innovation, Ann Arbor, MI, USA
3Group Trauma, Emergency & Transplant Standards Manager, Lenmed, South Africa
4University of KwaZulu-Natal, School of Nursing & Public Health, Durban, South Africa

オリジナル論文

DOI: https://doi.org/10.24298/hedn.2025-SP08

要旨

災害の発生頻度と深刻度が世界的に増加する中,すべての国が効果的な災害リスク軽減戦略を模索し,特定することが不可欠である。南アフリカは特に気候変動の壊滅的な影響を受けやすい。20年以上前に画期的な災害政策が策定されたにもかかわらず,南アフリカ全土において公平な実施戦略はいまだに不足している。本稿では,南アフリカにおける災害の現状と災害リスク軽減戦略について検討するとともに,看護人材の現状,カリキュラム開発,国際協力の取り組みについても考察する。

キーワード:災害看護,看護人材,気候変動

南アフリカにおける災害

気候変動の結果,世界的な災害の頻度は過去50年間で5倍に増加しており,この傾向は現在の温暖化傾向が逆転しない限り継続すると予測されている(国連,2021年)。南アフリカは特に気候変動の影響を受けやすく,干ばつや洪水の増加,気温の上昇が同規模の他の国々よりも2倍の速さで進行している(USAID,2024年)。過去10年間に南アフリカでは,極端な降雨や洪水を含むさまざまな災害が発生している。2022年のクワズール・ナタール州と東ケープ州の洪水では,400人以上の死者と4万人の避難者を出したほか,被害総額は約20億ドルに上った(南アフリカ共和国環境・森林・漁業省,2019年)。一方,他の地域では深刻な周期的な干ばつに見舞われ,水資源がひっ迫し,農業や食料安全保障に影響を与え,山火事を助長している(Cassidy, 2024)。

南アフリカにおける災害への備え

南アフリカでは,2002年の災害管理法や2005年に災害管理政策枠組みが可決されたにもかかわらず,特に地方では,主に資源や調整の制約により,災害リスク軽減の実施に大きな課題が残っている(van Niekerk, 2014)。現在,南アフリカでは,政府が災害管理システムを徹底的に再評価し,仙台防災枠組に沿って災害リスク軽減に向けて動き出す計画がある(国連国際防災戦略事務局,2015年)。
 同様に,最近の研究では,国内外の保健政策立案における看護職のリーダーシップと関与の不足が指摘されている。南アフリカの公衆衛生部門では看護師が大半を占めているものの,最前線で働く登録看護師は病院の災害政策策定にほとんど関与していないことが多い(Ditlopo et al., 2014)。これは,南アフリカの既存の病院災害政策が,最前線の登録看護師のニーズを十分に満たしているかどうかについて懸念を生じさせており,災害時に提供される看護ケアの質と安全性に影響を及ぼす可能性がある。看護職は世界最大の医療従事者集団であるため,看護人材を積極的に関与させることで,地域・地方・国家レベルの災害対応政策が各地域社会の具体的なニーズにより効果的に対応できるようになる。

南アフリカにおける看護人材の育成

世界的な傾向と同様に,南アフリカでも看護師不足が深刻化しており,その傾向は農村部や医療過疎地域で顕著である(南アフリカ共和国保健省,2024年)。2030年までに,看護職員の不足数は131,000人から166,000人に増加すると予想されており,その主な要因は退職に加え,プロフェッショナル看護師(正看護師)や専門看護師と比較して,Enrolled看護師(登録看護師:看護補助者と専門看護師の中間的な役割を担う,2年間の研修を受けた看護師)の養成に偏っていることにある(南アフリカ共和国保健省,2024年)。南アフリカ保健省は,2024年の看護労働力不足に関する報告書で,大学院レベルの研修プログラムを優先すること,すべてのレベルの看護師が教育を継続できるよう職場環境を整備すること,そして専門分野で熟練看護師を確保することの必要性を強調している(保健省:南アフリカ共和国,2024年)。

南アフリカの看護カリキュラム

南アフリカ国内では,看護教育は南アフリカ看護協議会(South African Nursing Council)が監督・管理している。トレーニングプログラムは,准看護師(1年間のトレーニング)から大学院の上級学位まで多岐にわたる。看護職員不足に関する国家評価と,ニーズに合わせた看護職員の育成の重要性に呼応して,専門看護師が注目されるようになり,これらの看護師に対する報酬の改定の必要性も指摘されている(南アフリカ政府,2022年;南アフリカ看護協議会,2020年)。この教育の重点のシフトは,2019年に高等教育資格サブフレームワークに各種の看護学位を整合させるという取り組みと並行して行われた。これは,教育機関間の訓練の一貫性を確保するための取り組みである(Crowley & Daniels, 2023)。最後に,国際的な動向に沿って,南アフリカでは大学院教育と認定の基準策定が開始されたばかりである(Crowley & Daniels, 2023)。 現在,災害看護に特化した資格は存在せず,その要素は救急看護や集中治療看護といった他のプログラムに組み込まれている。

継続教育,トレーニング,国際協力

「災害」とは,危険な出来事が原因で,あらゆる規模の社会機能が深刻な打撃を受けることを指す。災害管理は,継続的な課題であり,より一層の関心と国際的な協力が求められている。看護師は,専門知識を活かし,患者の身体的・精神的ニーズに対応できることから,緊急時の最前線で重要な役割を果たす。しかし,多くの看護師にとって,効果的な災害対応に関する知識やスキルは十分ではないのが現状である。
看護カリキュラムや資格の変更が進む一方で,看護に特化した大規模災害および災害対応訓練は依然として十分普及していない。病院大規模災害医療管理・支援(H-MIMMS by the ALS Group)は,2008年より南アフリカで実施されている。このコースは主に病院経営陣や病院の看護管理職を対象としており,救急部門の現場看護スタッフが参加することはほとんどない。
南アフリカで行われているトリアージ訓練では,救急部での日常的な使用を目的とした南アフリカトリアージスコア(SATS)に重点が置かれており,特定の災害トリアージ(ふるい分け,仕分け)の訓練は不足している(Cheema & Twomey, 2012)。MIMMSの原則に基づく救急医療サービスの訓練と,同じ研修を受ける看護師の訓練との間には乖離があり,災害時の管理プロセスに一貫性が欠けるリスクを生じさせている。
災害管理の基本的な能力は救急看護の研修に含まれているが,これが十分な訓練となっているかは再考すべきである。南アフリカにおける看護教育は,学術的研修(継続教育を含む)と実践的研修の両面を強化し,必要な設備や機材を考慮しながら発展させる必要がある。すべてのレベルの看護職(専門看護師,正看護師,一般看護師,登録看護師など)を対象に,短期コースとして実施すべきである。これにより,すべての最前線の看護師が研修を受ける機会を得られる。カリキュラムの中に組み込むだけでは,すでに資格を取得している看護師の大きな研修ニーズには対応できない。さらに,緊急医療サービス,病院管理職,上級看護管理職の間の研修格差に加え,看護職(すべてのレベル)内での研修格差も,災害対応の最前線における管理能力に重大な影響を及ぼすことを認識する必要がある。
南アフリカでは,災害看護の継続教育制度が十分ではなく,現在,この分野に特化したトレーニングを提供できる組織は限られている。災害時に効果的に対応できる看護スタッフの層を広げるには,救急外来以外の現場や専門分野で働く看護師を対象とした,災害管理に関する看護の専門トレーニングが必要である。
国際看護師協会(ICN)と世界保健機関(WHO)は,国際的な災害管理と協力に看護師が関与することを引き続き提唱している。これは,第8回世界災害看護学会議(2024年)で強調され,地域的な知識とグローバルな枠組みを活用することの重要性が強調された(世界保健機関,2024年)。災害管理後の教訓の共有だけでなく,トレーニングや教育に関するこのようなグローバルな看護の連携は,世界の多くの地域,特にアフリカ大陸では不足している(Chen et al., 2017; Farokhzadian et al., 2024)。

結論

現在,災害対策戦略への看護職の参加を促進するための国や地域に特化した介入策を検証した実証データは限られている(Kruger & Bell, 2024)。我々の提言は,看護職のリーダーシップと政策策定への関与を強化し,国民の健康増進を目指す国際看護師協会およびWHOの提言に沿ったものである(International Council of Nurses, 2022; World Health Organization, 2020)。

References

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Cheema, B., & Twomey, M. (2012). The South Africa Triage Scale (SATS), Training Manual 2012. Emergency Medicine Society of South Africa. Cape Town: Western Cape Government
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Chen, I.-H., Chang, S.-C., Feng, J.-Y., Lin, S.-J., Chen, L.-C., Lee, C.-L., & Lai, F.-C. (2017). Nurse Participation in Continuing Education in Disaster Nursing in Taiwan. Journal of Emergency Nursing, 43(3), 197–201. https://doi.org/10.1016/j.jen.2016.10.009
Crowley, T., & Daniels, F. (2023). Nursing education reform in South Africa: Implications for postgraduate nursing programmes. International Journal of Africa Nursing Sciences, 18, 100528. https://doi.org/10.1016/j.ijans.2023.100528
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Ditlopo, P., Blaauw, D., Penn-Kekana, L., & Rispel, L. C. (2014). Contestations and complexities of nurses’ participation in policy-making in South Africa. Global Health Action, 7,10.3402/gha.v7.25327. https://doi.org/10.3402/gha.v7.25327
Farokhzadian, J., Mangolian Shahrbabaki, P., Farahmandnia, H., Taskiran Eskici, G., & Soltani Goki, F. (2024). Nurses’challenges for disaster response: A qualitative study. BMC Emergency Medicine, 24(1), 1. https://doi.org/10.1186/s12873-023-00921-8
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Kruger, K., & Bell, S. A. (2024). How Nurses Contribute to Global Health System Resilience: A Scoping Review Protocol. https://doi.org/10.7302/23388
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collaboration

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