Disaster nursing in Liberia: Leveraging international training for workforce development and infrastructure improvement
リベリアにおける災害看護:人材育成とインフラ改善のための国際研修の活用
Shirley S. FAHNBULLEH
Senior Coordinator Continuing Professional Development, University of Liberia, College of Health Sciences, Liberia
DOI: https://doi.org/10.24298/hedn.2025-SP02
要旨
リベリアは,多様な災害に直面しており,その中には社会経済状況,インフラの制約,環境要因のために深刻な問題となるものもある。ますます相互に結びついた世界において,国際的な研修会やセミナーは,グローバルな知識交換,専門能力の向上,多様な分野における協力を促進するための重要なプラットフォームとして注目されている。これらのプログラムは,参加者に医療や持続可能な開発に関する専門的なスキルや洞察を提供するとともに,異文化理解を促進することを目的としている。本稿では,リベリアに焦点を当てながら,国際的な研修プログラムの拡大傾向について,その主要な特徴,種類,利点,及び顕著な事例を紹介する。
キーワード:国際セミナー,専門能力開発,知識交換,異文化コラボレーション,能力開発
リベリアにおける災害とその対策
リベリアは多くの国と同様に,多様な災害に直面しており,その中には社会経済的状況,インフラの制約,環境要因によって特に深刻な問題となるものもある。本稿では,リベリアにおける災害看護の現状を,論文の最後に記載した資料を参照しながら検証する。リベリアにおける災害の主な特徴と,それに対する可能な対策として,以下の点が挙げられる。
まず,リベリアでは特に雨季(5月~10月)に大規模な洪水が発生する。豪雨により河川が氾濫し,インフラが破壊され,住民が避難を余儀なくされる。特に首都モンロビアでは,不十分な排水設備が問題を深刻化させ,都市型洪水が大きな課題となっている。洪水は住宅や農地に被害をもたらし,コレラや赤痢などの水系感染症の蔓延を招く可能性がある。この問題に対処するためには,特に都市部において排水設備の拡張や維持管理の強化が必要である。具体的な対策としては,洪水予測および早期警報システムの導入により,脆弱な地域の住民に対して迅速な警告を発する仕組みを確立することが挙げられる。また,森林再生や流域管理を推進することで,土壌侵食を抑え,雨水の流出速度を遅らせることで鉄砲水を防ぐことができる(リベリア保健省, 2021)。(図1参照)。
図1 リベリアでの洪水(著者提供)
第二に,リベリアの医療インフラは脆弱であり,感染症の流行やパンデミックに対して非常に脆弱である。2014~2015年のエボラ出血熱の流行は特に壊滅的であり,数千人の命が奪われた。その後,2019年には新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が続いた。さらに,コレラの流行も頻繁に発生しており,これは主に不衛生な環境や汚染された水の供給が原因であることが多い。マラリアも依然として主要な罹患・死亡要因であり,その主な原因は蚊の媒介の蔓延と医療へのアクセスの不足である。このような課題に対処するために,政府が取り組むべき対策は多岐にわたる。まず,医療インフラの強化や,特に農村地域における基本的な医療サービスへのアクセスの拡充が求められる。また,農村部で導入されているFit-for-Taskモデルに基づき,看護要員への高度な研修を提供することも重要である。このモデルは,人々の得意なことや興味のあることを,求められる業務内容と適切に結びつけることを目的としており,個人の満足度と医療分野の成功を両立させるために,スキル,動機,能力を適切に組み合わせるものである(国連人口基金 UNFPA, 2022)。リベリアでは,一部の看護師や助産師は訓練を受けているものの,このモデルを実践するにはさらなる知識と技術の習得が必要である。加えて,国民に対して衛生管理や感染症予防策について教育する公衆衛生キャンペーンの実施が不可欠である。また,全国的に水・衛生・衛生管理(WASH)の取り組みを推進し,安全な水源の確保や衛生設備の改善を図ることで,水系感染症の予防に努める必要がある。これらのキャンペーンの一環として,接触者追跡や隔離措置の実施も重要な対策となる(USAID, 2019)。
第三に,リベリアは慢性的な食料不安に直面しており,特に農業が主な生計手段となっている農村地域で深刻な問題となっている。しかし,農業生産性の低さ,不十分なインフラ,気候変動の影響により,多くの地域社会が十分な食糧を確保することが困難である。。特に子どもたちの栄養不良は重大な課題である。食料生産の向上には,気候変動に適応した農業,灌漑システムの導入,より優れた種子品種の活用が重要である。また,食料不安への対策として,危機時に緊急食料支援を提供しつつ,長期的な戦略を進める食料支援プログラムの実施も有効である(世界銀行, 2017)。栄養教育を通じて,多様で栄養価の高い食事や適切な食品保存方法について地域社会に教えることで,栄養状態の改善を目指す。
第四に,リベリアは一般的に湿潤な気候であるが,気候変動の影響により干ばつが発生することもあり,その影響は深刻化する可能性がある。干ばつは農業,水資源,食料安全保障に大きな影響を及ぼす。すでに気温の上昇や降水パターンの変化が観測されており,一部の地域では作物の収穫量の減少や水不足の深刻化が報告されている。気候変動への適応策には,気候変動に強い農業技術や水資源の保全方法を推進することが重要であり,これにより地域社会が変化する環境に適応できるよう支援することができる。また,災害リスク削減計画を策定し,気候関連災害に対応する国家および地域レベルの対策を強化する必要がある。具体的には,早期警報システムの導入やインフラの強靭化などが求められる(世界保健機関 WHO, 2020)。最後に,特に脆弱な部門に対しては,気候変動の緩和と適応プログラムに対する国際的な支援が不可欠である。
リベリアにおける看護人材育成
看護は医療システムの中核を担う分野であり,患者ケア,地域の健康アウトカム,そして医療システム全体の機能に直接的な影響を与える。リベリアでは,サハラ以南のアフリカ諸国と同様に,看護人材の育成がいくつかの課題に直面してきた。これには,医療分野への歴史的な投資不足,内戦の影響,社会経済的な制約などが含まれる。しかし近年,看護職の強化を目的として,教育カリキュラムの改善,研修プログラムの充実,専門能力開発の機会の拡大などの取り組みが進められている。こうした取り組みは,リベリアにおける強固な医療システムの構築,医療サービスの向上,公衆衛生上の課題の解決にとって極めて重要である(リベリア保健省, 2021)
リベリアの看護職は長年にわたり,十分な訓練を受けた人材の不足,給与の低さ,劣悪な労働環境といった多くの課題に直面してきた。特に,14年間にわたる内戦(1989年~2003年)は,医療サービスに深刻な混乱をもたらし,医療分野の人材流出を引き起こした。多くの看護師が国外に脱出するか殺害され,看護学校や病院も破壊されるか閉鎖に追い込まれた。内戦終結後,医療インフラの整備は進められてきたものの,現在も医療従事者,特に看護師の深刻な不足が続いている。これは特に農村部で顕著である。世界保健機関(WHO)によると,リベリアの人口に対する看護師の比率は,WHOが推奨する「1,000人あたり1人」という基準を下回っている。さらに,医療サービスの多くが首都モンロビアに集中しており,農村部や医療サービスが行き届いていない地域では,熟練した看護ケアへのアクセスが極めて限られている。この不均衡は,特に社会的に弱い立場にある人々の医療アクセスと健康アウトカムの格差を深刻化させている。
リベリアにおける看護人材育成にはいくつかの重要な課題がある。歴史的に,看護師が高度な研修を受ける機会が限られており,その結果,専門職の不足や看護分野におけるキャリア開発の機会が限られていた。また,競争力のある給与の不足,劣悪な労働環境,限られたキャリアアップの機会などが原因で,定着率の低さが問題となっている。そのため,多くの看護師が他の分野や海外へより良い就職機会を求めて離職している。さらに,リベリアの看護師は十分な専門的認知や支援を受けることが少なく,これが士気の低下を招き,提供される医療の質にも影響を与えている。看護職を強化するためには,より良い政策の導入,適切な資金提供,制度的な支援が必要である。
教育カリキュラムと研修施設の導入
看護分野における人材不足に対応するため,新たな教育カリキュラムの開発,研修施設の改善,専門能力の向上のための機会創出が進められている。(図2および図3を参照)。過去10年間で,リベリアは看護教育制度の改革において大きな進展を遂げてきた。これには,世界保健機関(WHO),国連人口基金(UNFPA),米国国際開発庁(USAID)などの国際的な支援が大きく関与している。これらの改革は,看護師が進化する医療ニーズに適切に対応できるようにすることを目的としている。その他の対策として,以下の取り組みが挙げられる。
図2 著者が黒板を使って教えている様子(著者提供)
図3 著者の作業現場での様子(著者提供)
- 事前教育: リベリアの看護教育プログラムは,これまで主にディプロマや資格レベルで提供されてきたが,近年では学士・大学院レベルのプログラムの開発に重点が置かれている。リベリア大学などの教育機関では,看護学士(BSN)プログラムが導入され,看護職の専門性向上が図られている。これは,高度な訓練と専門技術を持つ看護師に対する需要の高まりに応えるものである。
- カリキュラムの近代化: 国際基準に準拠し,リベリアの看護教育カリキュラムは,最新の臨床実践,エビデンスに基づくケア,公衆衛生への重点強化を含む形で更新が進められている。さらに,看護師が質の高い思いやりのあるケアを提供できるよう,コミュニケーション,リーダーシップ,倫理といったソフトスキルの教育にも重点が置かれている。
- 能力重視型研修: リベリアの看護教育では,実践的なスキル,批判的思考力,そして限られた資源の中で働く能力を重視する能力重視型アプローチがますます採用されるようになってきている。このモデルは,実実際の医療現場により即しており,看護師がリベリアの医療システムにおける課題に対応できるよう,より実践的な準備を整えることを目的としている。
さらに,リベリアでは現職の看護師の専門能力の向上を図る取り組みが進められている。既存の看護人材のスキル向上を目的とした研修プログラム,ワークショップ,継続教育の機会が導入されている。これらの取り組みには,リベリア保健省と連携する国内外の組織が関与し,看護師の継続的な専門教育やスキル向上のための施策が実施され,母子保健,救急医療,感染管理などの短期研修プログラムが提供されている。また,リベリアは看護教育の強化を目的とした地域・国際的な取り組みにも積極的に参加している。例えば,世界保健機関(WHO)や周辺国の看護学校との提携により,ベストプラクティス,カリキュラム,研修方法の共有が促進されている。
看護教育改革は前向きな進展を見せているが,新しいカリキュラムを実施し,維持していくにはいくつかの課題がある。 - 限られた資源: 多くの看護学校では,近代的な看護教育に必要な十分なインフラ,教科書,シミュレーション実習室が不足している。また,資格を持つ教員の数も不足しており,それが研修プログラムの効果を制限する要因となっている。
- 訓練を受けた看護師の定着: 教育や研修の改善が進んでいるにもかかわらず,看護師の定着率の低さは依然として大きな課題となっている。国際的な支援や資金によって養成された看護師の多くが,より良い労働環境を求めて海外へ移住することが多く,これが教育改革の長期的な効果を制限している。
- 政策と規制の枠組み: 新しいカリキュラムの導入には,強力な政策支援と規制の監督が不可欠である。看護教育プログラムが確立された基準を満たすよう,看護学校の認定や看護師の資格認定など看護職の適切な管理体制の整備が求められている。
グローバル化が進む世界において,さまざまな分野での知識交換や国境を越えた協力の重要性はこれまでになく高まっている。これは特に,医療,教育,技術,ビジネスなどの分野において顕著であり,専門知識や経験を共有することで,イノベーションを促進し,成果を向上させることができる。こうした国際的な取り組みの一環として,多くの国や組織が,海外からの参加者を受け入れる研修会,セミナー,ワークショップを実施している。これらのプログラムは,各分野における最新の知識やスキルを提供するだけでなく,異文化理解を深め,ネットワークを構築し,長期的なパートナーシップを促進する役割も果たしている。
他国からの参加者を受け入れる研修会やセミナーは,特定の知識の不足を補い,能力構築を促進し,さまざまな分野の専門家のスキルを強化することを目的として設計されている。これらのプログラムは,実践的な学習と理論的な発展の両方のためのプラットフォームとして機能することが多い。研修プログラムは,感染予防と管理,水と衛生問題など,特定の分野に焦点を当てて実施されることが多い。これらのセッションの重要な特徴の一つは,異文化交流の機会が生まれることである。多様な背景を持つ参加者がそれぞれの視点を持ち寄ることで,学習全体の質が向上し,より豊かな経験となる。また,多くのプログラムでは,peer-to-peer(参加者同士の)学習やグループ活動を通じて,国や組織の枠を超えた協力を促進している。特に重要なのは,デジタルプラットフォームの活用が進む中で,多くの研修がオンラインで開催されるようになっていることである。オンラインコースやウェビナーにより,参加者は移動することなく各国から研修に参加できるため,よりアクセスしやすく,費用対効果の高いプログラムとなっている。さらに,一部の国際機関や政府は,将来のリーダーの育成を目的としたフェローシップやリーダーシップ研修プログラムを提供しており,これにより医療の質の向上や患者の満足度向上を図ることが期待されている。
結論
リベリアにおける看護人材育成の現状は,進展と課題の両面がある。看護師の教育カリキュラムは大幅に改善されてきたものの,人材不足,不十分な研修インフラ,定着率の低さといった問題は依然として残っている。特に農村地域において,医療へのアクセスと健康アウトカムを向上させるためには,看護人材の強化が不可欠である。今後の取り組みとしては,看護教育の質とアクセスを向上させること,研修を受けた看護師が職に定着できる環境を整えること,そして看護職の価値を高め,支援する政策を推進することが求められる。また,海外からの参加者を受け入れる研修会やセミナーは,グローバルな知識交換,専門的スキルの向上,国際的な協力の促進において重要な役割を果たしている。知識の移転,ネットワーク構築,専門能力開発といったこれらのプログラムの利点は,今後もより相互に結びついた革新的な世界を形成するうえで不可欠であり,グローバルな学習プラットフォームとしての役割を担い続けることになるだろう。
References
Liberia Ministry of Health. (2021). ++National Health Policy and Plan 2011–2021. Ministry of Health, Republic of Liberia.
United Nations Population Fund (UNFPA). (2022). Nursing Human Resource Development in Liberia. UNFPA Liberia.
USAID. (2019). Strengthening Nursing Education in Liberia: Progress Report. USAID Liberia.
World Bank. (2017). Human Capital Development in Liberia: The Role of the Health Workforce. World Bank Group.
World Health Organization (WHO). (2020). ++Liberia Health Workforce Country Profile. WHO.