Research Article
Quantification of disaster impacts through household well-being losses
家庭のwell-being損失を通じた災害の影響の定量化
Abstract
Natural disaster risk assessments typically consider environmental hazard and physical damage, neglecting to quantify how asset losses affect households’ well-being. However, for a given asset loss, a wealthy household might quickly recover, while a poor household might suffer major, long-lasting impacts. This research proposes a methodology to quantify disaster impacts more equitably by integrating the three pillars of sustainability: environmental (hazard and asset damage), economic (macro-economic changes in production and employment) and social (disaster recovery at the household level). The model innovates by assessing the impacts of disasters on people’s consumption, considering asset losses and changes in income, among other factors. We apply the model to a hypothetical earthquake in the San Francisco Bay Area, considering the differential impact of consumption loss on households of varying wealth. The analysis reveals that poorer households suffer 19% of the asset losses but 41% of the well-being losses. Furthermore, we demonstrate that the effectiveness of specific policies varies across cities (depending on their built environment and social and economic profiles) and income groups.
Subjects: Civil engineering; Natural hazards; Socioeconomic scenarios
抄録
自然災害のリスク評価では通常,環境上の危険と物理的損害が考慮され,資産の損失が世帯の幸福(well-being)にどのような影響を与えるかを定量化することは無視されている。ただし,特定の資産損失が発生しても,裕福な世帯はすぐに回復する可能性があるが,貧しい世帯は長期にわたる大きな影響を受ける可能性がある。この研究は,持続可能性の3つの柱である環境(危険と資産の損害),経済(生産と雇用のマクロ経済的変化),社会(家庭レベルでの災害復興)を統合することにより,災害の影響をより公平に定量化する方法論を提案している。このモデルは,資産の損失や収入の変化などの要因を考慮して,災害が人々の消費に及ぼす影響を評価することで革新をもたらす。さまざまな富を持つ世帯に対する消費損失の影響の違いを考慮ながら,このモデルをサンフランシスコ ベイエリアの仮想地震に適用する。分析の結果,貧しい世帯は資産損失の 19% を被り,福祉損失の 41% を被っていることが明らかになった。さらに,特定の政策の有効性は都市(建築環境や社会経済的プロファイルに応じて)や所得グループによって異なることを示した。
サブジェクト: 土木工学; 自然災害; 社会経済シナリオ
コメント
この研究は,災害が社会経済的に異なる集団に与える影響を捉えるために,well-beingの損失を定量化することを試みている。
以下に示すモデルを使いシミュレーションが行われ,well-beingの損失が測定された。詳細な内容(方程式を含む)は原文を参照してほしい。
・地震の破壊と地震動のシミュレーション:米国地質調査所のUCERF2地震発生予測
・物的損害と直接資産損失のモデル化:HAZUS28
・災害後の経済復興モデリング:適応型地域産業連関モデル(ARIO)修正版
・家計のwell-beingマイクロシミュレーション:社会経済レジリエンス・モデル(Walsh and Hallegatte, 2019)を基に(1)家計の労働収入,家賃,住宅ローンの支払いを含め,(2)ARIOモデルによって推定された,災害が雇用と労働収入に与える影響と家計収入をリンクしシミュレーションが行われた。
シミュレーションは,サンフランシスコ湾岸地域で発生する可能性のある大規模地震の影響について行われた。その結果,平均的な直接的経済資産損失は1,150億米ドル(地域GDPの15%),生産性の高い民間部門の損害は,平均510億米ドルであった。生産資本の破壊は経済全体に波及し,さらに350億米ドルの付加価値損失を引き起こし,地域のGDPが回復するのに2年半かかることが試算された。最も影響を受けたセクターは,専門・ビジネスサービス業(付加価値損失全体の35%)と金融・保険・不動産業(32%)であったが,被災前と比較して最も損失が大きかったのは,修理・メンテナンスサービス,個人・洗濯サービスなどのサービス業(「その他サービス」と総称される)で,その損失総額は同部門の年間付加価値額の81%に達した。
最貧困層の家計が被る資産損失は全体の19%に過ぎないが,well-being損失は41%となる。一方,最も裕福な世帯は,資産損失は35%であるが,well-being損失は15%にとどまった。well-beingを定量化することで,災害前後のリスク管理努力を評価し,その効果を社会経済グループ間で比較することができる。
Well-being損失という指標を導入することで,災害の影響を評価することで,復興過程を通じて災害がもたらす結果についてより踏み込んだ洞察が得られると考えられる。
Walsh, B & Hallegatte, S (2019): Measuring Natural Risks in the Philippines: Socioeconomic Resilience and Wellbeing Losses Policy Research Working Paper (World Bank, 2019)